野田佳彦元首相が首相在任当時、上皇・上皇后両陛下から
直接、お話を伺う機会があった。「心から感謝の気持ちと尊崇の念を持っています」という野田氏が語る
上皇陛下からの教えを紹介する(『カレント』令和5年5月号)。「私は東日本大震災が発生した時は財務大臣で、その半年後に
総理大臣に就任しました。
総理として被災地の復旧復興が第一のテーマでした。
私も何度も被災地を訪問しましたが、上皇・上皇后両陛下もそれ以上に
足しげく通われました。
あるとき、上皇后陛下からこういった旨のお話を聞きました。『最初は、被災地に足を運ぶことに臆する気持ちもありました。
現地の皆さんの足手まといになるのではないかと。
政治家の方に対しては陳情もあるでしょう。
私たちが訪れたとしても陳情があるわけではありません。
それでも国内で大規模災害があれば天皇陛下(上皇陛下)は
確信を持って行かれます。
私もその意味が分かるようになりました。
それは、被災者の方々がずっと心に溜めている悲しい切ない気持ちを、
私たちにはポロポロと吐き出される。
東日本大震災の時には“水門を閉めに行った消防団員の夫が帰って来ません”
“孫が目の前で流されました”と。
その話を陛下が受けとめてくれる。
それが国民にとって大切なことだと分かったのです』
と。私はその話を聞いたときに、なぜそこまで上皇・上皇后両陛下が
足しげく通われたのか、『象徴としてのお務め』とは国民に寄り添い、
国民の声に真摯に耳を傾けることだとわかったのです」
上皇后陛下には次のような御歌(みうた)がある(平成28年)。ためらひつつ
さあれども行く
傍(かたわ)らに
立たむと 君の
ひたに思(おぼ)せば(自分自身の感情としては、果たして被災者のお役に立てるのだろかと
躊躇しながらも、それでも天皇陛下が災害に苦しみ悲しむ国民の
傍らに立ち、その声に真摯に耳を傾けることをひたすらお考えで
あられるので、私的なためらいは振り切って、公〔おおやけ〕の
ことだけを思っておられる陛下とご一緒に、私も被災地に行きます)「上皇陛下は『日本国及び日本国民統合の象徴』の意味を真剣に考え抜いて
行動されていた。
私は天皇を大事にすること、皇室を大事にすることが国のマネジメントの
根幹だなと痛感したのです。
ですから、上皇陛下に心からの感謝の気持ちと尊崇の念を持っています。
そんな、象徴としてのお務めにものすごく力を入れてこられた上皇陛下が、
ご高齢もあいまって体力の限界を感じられるようになって、2016年8月、
ビデオメッセージを出されました。
その想いはいかばかりかと思います」「当時、民進党の幹事長でしたので、皇位の検討委員会を作って、
きちっと陛下の想いを受けとめて、生前でも退位できるような道を
つくっていこうと、皇室典範の改正も含めた案を作ったのです。
そして世論を作りながら与党に働きかけて、結果的に特例法という形で
折り合いました。
逆に僕らが世論を作らなかったらどうなっていたかと思います」上皇陛下のご譲位を可能にした皇室典範特例法の制定に当たり、
野田氏が絶大な貢献をされた事実は、多く人々の知るところだ。「上皇陛下からは本当にたくさん教えていただきました。
(首相として)内奏にて政府の動きをご説明する機会がありますが、
逆に教わることが私は多かったです。
『熱殺蜂球(ねつさつほうきゅう)』という言葉を教わって驚きました。
宮中にミツバチの巣があって、上皇・上皇后両陛下はミツバチが
お好きだったそうです。
しかしスズメバチが来るようになったので蜂の巣を駆除することになって
残念だという話でした。
しかし実は、ニホンミツバチはスズメバチに勝つことができるんだと。
体の大きさは30倍も違う、アゴの力、毒性どれも強いスズメバチに対して、
ニホンミツバチが勝つことがあると。45℃までしか耐えられないスズメバチに対して、50℃まで耐えられる
ニホンミツバチが群になって取り囲み、羽を振るわせて高温を作り出す。
50℃近くまで温度が上昇してスズメバチは死んでしまうそうです。
これが熱殺蜂球。
これができるのはニホンミツバチだけだと。
ニホンミツバチも高温で寿命を縮めるそうです。
でも巣を守るために、天敵に向かって飛んでいく。
しかも、年寄りの蜂から率先して飛んでいくそうです。
若い衆はまだいい、俺たちがやるよということです。
これは日本人だなと思うのです。
陛下は本当に動植物にお詳しく、こういったことを
教えていただくのですが、そのどれもが日本論なのです。
東日本大震災、いろいろ困難があるけれども、力を合わせて
克服できるよという意味だったのだと思います。
本当に心から尊敬申し上げております」当時は「天皇」であられた上皇陛下と、当時は「内閣総理大臣」だった
野田氏がたったお二人だけで会われた時に(内奏では一切、余人を交えない)、
このような場面があったかと思うと、胸に迫るものがある。【高森明勅公式サイト】
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